2026年9月2日

Claude Fable 5.1
5.0 から何が変わったのか

2026年9月1日、Anthropic(アンソロピック)社が Claude(クロード)の最上位AI「Fable 5.1」を公開しました。 ひとことで言えば、値段はほぼ据え置きのまま賢くなり、長い作業では実際に払う金額が2割5分から4割5分ほど下がったアップデートです。

この文章は、ITやAIにくわしくない方のために書いています。
はじめて出てくる言葉には、その場で必ず説明をつけました。
上から順に読めば、5.0 と 5.1 の違いがひととおり分かるようになっています。

その1先に結論だけ — 3行でわかる変更点

細かい話に入る前に、いちばん大事なところだけ先にお伝えします。

第一に、はっきり賢くなりました。とくに「何時間もかけて自分で作業を進める」場面での伸びが大きく、科学研究を自力でやらせるテストでは点数が2倍以上になっています。

第二に、実際に支払う金額が下がりました。基本の料金表は1円も変わっていません。変わったのは「一度読ませた資料を、もう一度読み直すときの料金」だけです。それが4分の1になった結果、ふつうの使い方で約25%、AIに長時間まかせる使い方では最大で約45%、請求額が減ります。

第三に、安全装置の誤作動が減りました。これまでは、ふつうの医療の質問や、防御目的のセキュリティの相談まで危険とみなされて、別の(少し性能の低い)AIに勝手に切り替わることがありました。その「行きすぎ」が大きく減っています。

Claude.ai の月額プランを使っている方へ

あなたに関係するのは第一と第三です。第二の値下げは、使った分だけ払う方式(従量課金)の人向けの話で、月額プランの請求額は変わりません。ただし、同じ料金でより賢いAIが使えるようになる、と考えれば損はありません。

その2前提の話 — そもそも「Fable」とは何なのか

ここは、すでにご存じの方は飛ばしてかまいません。ただ、これを知らないと5.1の話が半分も伝わらないので、5分だけおつきあいください。

Claude には「大きさ」の違う4種類がある

Claude(クロード)は、Anthropic という会社が作っているAIです。人間でいえば「同じ会社の社員」のようなもので、能力と料金の違う何段階かが用意されています。下から順に、Haiku(ハイク)、Sonnet(ソネット)、Opus(オーパス)、そして最上位が Fable(フェイブル)です。

下に行くほど速くて安く、上に行くほど賢くて高い。Fable は「いちばん難しい仕事のためのAI」という位置づけです。

Fable と Mythos は、実は同じAI

ややこしいのですが、Fable の上に Mythos(ミュートス) という名前も出てきます。これは「もっと賢い上位モデル」ではありません。中身はまったく同じAIで、安全装置の強さだけが違うのです。

Fable は、危険な使われ方(サイバー攻撃の道具づくりや、生物兵器につながる知識)を防ぐセーフガードを強くかけた版で、誰でも使えます。Mythos はその安全装置をゆるめた版で、審査を通ったごく一部の組織(防御側のセキュリティ専門家や、生命科学の研究者)にしか渡されません。

Fable 5 は、いちど世の中から消えた

Fable 5(=この文章でいう「5.0」)は2026年6月9日に登場しました。ところが3日後の6月12日、アメリカ商務省の輸出規制に対応するため、Anthropic は Fable 5 と Mythos 5 の提供を停止します。規制が解かれた6月30日を経て、7月1日に復活しました。18日間の空白です。

復活から2か月後、2026年9月1日に出てきたのが Fable 5.1 です。バージョン番号は「.1」しか上がっていませんが、中身の伸び幅はそれ以上でした。

その3早見表 — 5.0 と 5.1 を一枚で並べる

まずは全体像です。細かい説明はこのあと順にしていきますので、いまは「へえ、こういう項目が変わったのか」とながめるだけで十分です。

基本仕様と料金の比較
項目Fable 5(5.0)Fable 5.1
発表日2026年6月9日2026年9月1日
呼び出し名claude-fable-5claude-fable-5-1
一度に読める量100万トークン100万トークン(同じ)
一度に書ける量12万8千トークン12万8千トークン(同じ)
読ませる料金100万トークンあたり10ドル同じ(10ドル)
書かせる料金100万トークンあたり50ドル同じ(50ドル)
読み直しの料金100万トークンあたり1.00ドル0.25ドル(4分の1に)
知識の新しさ2026年1月ごろまで2026年6月まで
考える深さの調整会話の最初に決めたら固定会話の途中で変えられる(試験機能)
文章の透かしなしあり(目には見えない)
立ち位置旧型(レガシー)扱いに変更現行の最上位

「知識の新しさ」は、AIが学習した情報がいつまでのものか、という意味です。5.1 は2026年6月までを覚えているので、それ以降の出来事は自分では知りません。知らないことは検索して補います。

ひとつだけ確認できていない数字

5.0 の「知識の新しさ=2026年1月」だけは、公式の文書で直接は確認できませんでした。比較記事などの二次情報にもとづく数字です。5.1 の「2026年6月」のほうは、AWS の公式モデル説明に明記されています。

その4変化その1 — 頭がよくなった

AIの賢さは、ベンチマークという共通テストで測ります。学校の模試のようなもので、同じ問題を各社のAIに解かせて点数を比べます。

Anthropic が公表した結果を、5.0 と 5.1 で並べたのが次の図です。バーが長いほど成績がよいという意味です。

科学研究をAIだけで進めさせるテスト

Terminal-Bench-Science 0.1。実験の計画から実行までを、人の手を借りずにやらせて採点します。

5.024.7%
5.152.6%

27.9ポイント上がって、点数は約2.13倍になりました。同じ表で Opus 5 が29.0%、OpenAI 社の GPT-5.6 Sol が22.4%ですから、この分野では頭ひとつ抜けた形です。

プログラムを自力で書かせるテスト

Terminal-Bench 4.0。パソコンの黒い画面(コマンドライン)を自分で操作して、課題をやりとげられるかを見ます。

5.042.0%
5.155.8%

事務作業を自動化させるテスト

AutomationBench。社内の定型業務のような、手順の多い仕事をやらせます。

5.017.1%
5.131.4%

この3つの伸びが目立ちます。逆に、伸びが小さかったテストもあります。全体を表にすると次のとおりです。

ベンチマーク結果の一覧(差は当方で計算)
テストの名前と内容5.05.1
Terminal-Bench-Science 0.1
自律的な科学研究
24.7%52.6%+27.9
AutomationBench
業務の自動化
17.1%31.4%+14.3
Terminal-Bench 4.0
自律的なプログラミング
42.0%55.8%+13.8
GDPval-AA v2
知的労働全般(点数制)
17231853+130
OSWorld 2.0
パソコンの画面操作(厳格採点)
36.1%41.7%+5.6
Humanity's Last Exam
分野をまたいだ難問(道具なし)
57.8%60.9%+3.1
CursorBench 3.2.0
プログラミング支援
70.5%73.4%+2.9

読み取れることは、はっきりしています。もともと点数が低かった「難しくて長い仕事」ほど、大きく伸びたのです。すでに7割取れていたテストでは、伸びしろ自体が小さいので数ポイントの改善にとどまります。

「浅く考えても、前より賢い」という変化

点数以上に実用的なのが、この点です。

Fable には「エフォート(考える深さ)」という設定があり、low・medium・high・xhigh・max の5段階から選べます。深く考えさせるほど賢くなりますが、そのぶん時間とお金がかかります。

Anthropic によると、5.1 を低め(low や medium)に設定しても、5.0 と同等かそれ以上の結果が出るとのことです。つまり、同じ品質なら安く速く済ませられるようになりました。深く考えさせる設定は、本当に難しい問題のためにとっておけばよい、という設計です。

なお、初期設定は使う場所によって違います。Claude Code(プログラマー向けの道具)では high、Claude Cowork と Claude.ai(ふだんのチャット画面)では medium が既定値です。

実際に何ができたのか

点数だけではピンとこないので、公式発表に載っていた実例をひとつ紹介します。

投資会社ミレニアムでは、あるプログラムが「100万回に1回」という頻度でごくまれに異常終了する問題を4〜5年間かかえていました。社内の誰も原因を説明できず、Fable 5 を含むどのAIも見つけられなかった。それを Fable 5.1 が初めて突き止めました。外部の会社が提供している部品を逆解析し、異常終了時の記録と突き合わせて、その部品側の欠陥までたどりついたそうです。

その5変化その2 — 値段は同じなのに、支払いは減った

ここは仕組みが少しややこしいので、たとえ話から入ります。

「キャッシュ」を、コピー機で考える

あなたがAIに、100ページの資料を渡して質問したとします。次の質問でも同じ資料が必要ですが、毎回100ページを最初から読み直させるのは無駄です。

そこでAIは、一度読んだ資料を短期間だけ手元に置いておきます。これがキャッシュです。オフィスでいえば、よく使う資料をコピーして手近な引き出しに入れておくようなものです。次からは棚まで取りに行かず、引き出しから出せばいい。

この「引き出しから出す料金」が、100万トークンあたり1.00ドルから0.25ドルへ、4分の1になりました。それ以外の料金(新しく読ませる10ドル、書かせる50ドル)は1セントも変わっていません。

それでも請求額が2割5分から4割5分減る理由

「一部の料金が下がっただけで、そんなに変わるのか」と思われるかもしれません。変わるのです。理由は、AIに長時間まかせる作業では、支払いの大半がこの「読み直し」で占められているからです。

AIが1時間作業を続けるあいだ、これまでのやりとりを何十回も読み返します。1回ごとは小さくても、積み上がると全体の大半になる。だからそこが4分の1になると、総額がはっきり下がります。

同じ作業をしたときの支払い総額(5.0 を100としたとき)

Anthropic が2026年8月の実際の利用データをもとに算出した数字です。

ふつうの使い方(社内利用・チャット・APIの平均)

5.0100
5.175(−25%)

AIにまかせきりの作業(資料も道具も多用する使い方)

5.0100
5.155(−45%)
この計算、確かめました

読ませる料金10ドルに対し、5.0 のキャッシュ読み料金はその10分の1の1.00ドル、5.1 は40分の1の0.25ドル。1.00→0.25 はちょうど75%減です。指数でいう 100→75 が25%減、100→55 が45%減。いずれも計算が合っていることを確認しています。

ただし、全員が得をするわけではありません

短い質問を1回だけ投げるような使い方では、そもそもキャッシュがほとんど発生しません。この場合、値下げの効果はほぼゼロです。得をするのは、長い資料を扱う人、長時間の作業をAIにまかせる人です。

その6変化その3 — 安全装置の「行きすぎ」が減った

Fable には、危険な使われ方を防ぐためのセーフガードがついています。あやしいと判断された質問は、Fable では答えず、Opus という一段下のAIに自動で回されます。

この仕組みは大事なのですが、5.0 の時点ではかなり大ざっぱでした。ふつうの医療の質問や、自分の会社のシステムを守るための相談まで「危険」と判定されてしまう。これを誤検知(本当は問題ないのに警報が鳴ること)といいます。火災報知器が料理の湯気で鳴ってしまうようなものです。

5.1 では、ここが大きく改善されました。

安全装置の変化
分野5.0 での状態5.1 での変化
セキュリティ関連 防御目的の相談も止められがちだった Claude Code での警報が平均で約60%減。さらに、ソフトの弱点を「見つける」作業が許可された
生物・医療関連 一般的な医療の質問も止められがちだった ふつうの生物・医療の質問での警報が85%減

「弱点を見つけるのは許可、攻撃の道具を作るのは禁止」という線引きが新しい点です。守る側の仕事は手伝うが、攻める側の道具づくりは手伝わない、という考え方です。

今も Opus に回される作業として、侵入テスト、攻撃コードの作成、プログラムの中身を直接調べる弱点探しの3つが明記されています。生命科学の本格的な研究も同様です。

その7変化その4 — 性格とクセが変わった

ここは、ふだんチャットで使う方にいちばん関係する話かもしれません。設定を何も変えなくても、5.1 は5.0 と違うふるまいをします。公式の開発者向け文書が、7つの違いを正直に列挙しています。

何もしなくても変わるクセ
変わったこと具体的にどうなるか
文章が密になった一文が長くなり、段落の切れ目が減る傾向があります。読みごたえは増しますが、人によっては読みにくく感じます。
箇条書きや見出しが減った太字・見出し・箇条書きを、以前のモデルより使わなくなりました。「箇条書きにして」と明示的に頼むほうが確実です。
作業中の実況が減った長い作業のあいだ、途中経過の報告が少なくなりました。とくに深く考えさせる設定のときに顕著です。黙って進むので、待っている側は不安になるかもしれません。
道具をまとめて使わなくなった5.0 はいくつかの調べものを一度にまとめてやっていましたが、5.1 は1回ずつ順番にやりがちです。答えの質は落ちませんが、時間と費用は少し増えます。
浅く考える設定だと検索しないlow 設定のとき、記憶だけで答えて検索を省く傾向があります。最新情報が必要なときは設定を上げるほうが安全です。
引用符をつけずに写しがち資料を要約するとき、原文をそのまま使いながら「引用です」と示さないことがあります。そのまま公開する用途では注意が必要です。
ファイルを丸ごと書き直しがち1行直せばよい場面でも、全部書き直すことがあります。結果は同じですが、時間と費用がかさみます。

こうした変化を、Anthropic が隠さず一覧で公開しているのは珍しいことです。裏を返せば、これまでのプロンプト(AIへの指示文)をそのまま使うと、期待した形式で返ってこない場合がある、ということでもあります。

対処はかんたんです

「見出しと箇条書きを使って整理して」「作業中も進捗を報告して」「必要な情報は必ず検索で確認して」と、指示文に一行足すだけで解決します。公式にも、そのための書き方の案内ページが用意されています。

その8変化その5 — 開発者向けに壊れた3つのこと

5.1 には、5.0 向けに作ったプログラムが動かなくなる変更が3つあります。「動作が変わる」ではなく「エラーになる」ので、切り替え前の確認が必要です。

壊れる変更(3つ)
変更点内容と対処
道具の強制呼び出しが使えない 「必ずこの道具を使え」という指定(tool_choice の any / tool)がエラーになります。auto と none は従来どおり。理由は、5.1 が常に考えてから動くしくみで、強制呼び出しがその思考を飛ばしてしまうからです。対処は、auto のままプロンプトで「この道具を使って」と書くこと。形式を守らせたいだけなら strict や structured outputs を使います。
思考の記録は前のモデルに渡せない AIの思考の記録には「どのモデルが書いたか」が刻まれます。5.1 は古いモデルの思考を読めますが、逆はできません。モデルを切り替えながら使う仕組みでは、思考が黙って捨てられます。
過去の会話を書き換えるとエラー いったん送った指示文・道具の定義・過去のメッセージを後から書き換えると、以降の思考の記録が無効になります。2026年8月31日以降に作られたアカウントに適用。会話は「追記だけ」で組み立てるのが正解です。

3つ目には、性能以外の狙いもあります。蒸留(じょうりゅう)と呼ばれる、他社が偽アカウントを大量に作って賢いAIの思考を吸い出し、安全装置のない模倣品を作る手口を防ぐためです。

いっぽうで、便利になった機能も5つ追加されています。

追加された機能(5つ)
機能内容
途中で考える深さを変えられる難しい手順だけ深く、簡単な手順は浅く、と切り替えられます。しかもキャッシュを壊しません。試験提供中。
今回だけの指示が出せる「このターンだけ守ってほしいこと」を伝え、次の発言で自動的に効果が消えます。試験提供中。
途中経過だけ取り出せるAIの思考は隠したまま、作業の進捗メモだけを画面に出せます。試験提供中。
キャッシュ読み取りの値下げ「その5」のとおり、4分の1に。
出力に来歴情報がつく次の章で説明します。

その9変化その6 — 文章に見えない「透かし」が入った

5.1 が書いた文章には、目に見えない透かしが入るようになりました。お札の透かしと同じ発想で、「この文章はAIが書いた可能性が高い」と後から判定するためのしるしです。

透かしといっても、変な記号が混ざるわけではありません。文字数も増えず、意味も読みやすさも変わりません。あなたが誰か、どの会社かといった情報も一切含まれない、と Anthropic は説明しています。専用の判定システムを持っていない人には、まったく見えません。

なぜ入れたかというと、EUのAI法(AI Act)に対応するためです。Anthropic は2026年7月、他の190団体とともに「AIが作った内容であることを明らかにする」という取り決めに署名しました。2026年8月2日以降に出すモデルには透かしを入れる義務があり、5.1 が最初の対象になったわけです。

判定するための仕組み(検出API)は、いまのところ規制当局・報道機関・研究者など、限られた組織にだけ提供されています。今後、対象は広げていく方針です。

画像や動画についても、C2PA という国際規格の「作成履歴の署名」がつくようになりました。

その10もうひとつの顔 — Mythos 5.1 とは何か

くり返しになりますが、Mythos 5.1 は Fable 5.1 と中身がまったく同じAIです。違うのは、安全装置がゆるめてあることだけ。

その差がどれくらいかを示す数字が、公式資料にあります。プログラミングのテストで、Fable 5.1 が55.8%、Mythos 5.1 が60.9%。同じAIなのに5.1ポイント違うのです。この差はまるごと「安全装置が仕事のじゃまをした分」です。自社の安全装置がどれだけ性能を犠牲にしているかを、そのまま公開しているわけで、なかなか正直な出し方だと思います。

Mythos 5.1 に手が届くのは、2つの審査プログラムを通った人だけです。

Mythos 5.1 へのアクセス経路
プログラム対象
Cyber Verification Program(CVP)防御側のセキュリティ専門家。近く Mythos 級のモデルも対象に加わる予定。
Life Sciences Verification Program(LSVP)生命科学の研究者。米国政府と共同で設計され、最初の参加者はすでに登録済み。今後、対象を広げる方針。

現時点では米国の組織に限られていますが、Anthropic は米国政府と調整しながら、国内外に広げていきたいとしています。この枠組み全体は「Project Glasswing(プロジェクト・グラスウィング)」と呼ばれています。

その11科学の現場で起きたこと

今回の発表でいちばん語られているのが、この部分です。ベンチマークの点数ではなく、実際の研究で何ができたかという話です。3つ紹介します。

薬のもとになるタンパク質を設計した

多くの薬は、体の中の目的の場所にぴったりくっつくことで効きます。このくっつく相手役を設計するのが創薬の第一歩なのですが、これは非常に難しい。ふつう、設計したもののうち実際に使えるのは10〜15%程度だとされています。

Mythos 5.1 に公開されている設計ツールを渡してやらせたところ、12種類の標的に対して成功率が約50%に達しました。しかも3つの標的では、外部のコンペで提出された最良の設計より10倍強くくっつくものを作っています。設計は実際に外部機関で実験され、確認されました。

金星の地図を作り直した

Fable 5.1 は、30年以上前にNASAの探査機マゼランが撮った電波の画像をもとに、金星の3分の1の地域の新しい標高地図を作りました。これまで10〜20キロメートル単位までしか分からなかった地形が、2〜3キロメートル単位まで見えるようになり、高さの精度も25%改善しています。この地図は、今後の探査計画に役立ててもらうため、無償で公開されました。

研究用プログラムを高速化した

生物学の研究では、専用のAIプログラムを何千回も動かします。この速度が研究のペースを決めてしまう。Mythos 5.1 は、公開されているプログラムのソースコードだけを見て、7つのプログラムを最大2.5倍速くしました。結果はまったく同じまま、計算にかかる費用を30〜60%削減できたそうです。ふつうなら専門チームが数週間かかる作業を、数日で終えています。

その12では、どう使い分ければいいのか

意外に思われるかもしれませんが、Anthropic の公式ドキュメントは「まず Opus 5 から始めなさい」と書いています。Fable 5.1 が最上位だからといって、いつでもそれを使えとは言っていません。

理由は料金です。Fable 5.1 は Opus 5 の数倍の価格帯にあります。ふだんの調べもの、文章の下書き、ちょっとしたプログラムであれば Opus 5 で十分で、わざわざ高いほうを使う意味がありません。

目安としての使い分け
こういうときおすすめ
ふだんの相談・調べもの・文章作成Opus 5。速くて安く、十分に賢い。
数時間〜数日かかる作業をまかせたいFable 5.1。長時間の自律作業は5.1 の得意分野。
Opus 5 に深く考えさせても解けなかったFable 5.1。公式もこの判断基準を挙げています。
大量の資料を読ませて分析したいFable 5.1。100万トークンの記憶力と、安いキャッシュが効きます。
防御目的のセキュリティ業務が本業CVP への申請を検討。Fable では止められる作業があります。

なお、Fable 5.1 と Mythos 5.1 は「Covered Model(対象モデル)」という区分に入っており、30日間のデータ保持が必須です。安全監視のためで、これを外すことは原則できません。企業向けには、データを自社のクラウドに置いたまま使える Enterprise Frontier Safeguards という仕組みが今秋から段階的に提供されます。

その13よくある誤解に答える

Q. 「25%安くなった」と聞いたが、月額プランも安くなるのか?

いいえ。値下げは、使った分だけ払う従量課金にだけ適用されます。Claude.ai の Pro や Max といった月額プランの請求額は変わりません。ただし、同じ月額でより賢いAIが使えるようになるので、損はしていません。

Q. バージョンが「.1」しか上がっていないのに、そんなに変わるものか?

今回にかぎっては、変わりました。科学研究のテストで点数が2倍、業務自動化で1.8倍というのは、小数点の更新にしては異例です。いっぽうで、すでに7割取れていたテストでは数ポイントの改善にとどまっています。「全部が2倍賢くなった」のではなく、「苦手だったところが大きく伸びた」と理解するのが正確です。

Q. 5.0 はもう使えなくなるのか?

すぐには使えなくなりません。ただ「レガシー(旧型)」の扱いになりました。いずれ提供終了の日程が示されると思われますが、今すぐ乗り換えを強制されるわけではありません。

Q. 賢くなったなら、安全性は下がったのでは?

Anthropic の説明では逆です。テスト環境の外に手を出そうとする傾向や、ズルをして点数を稼ごうとする行動(報酬ハック)が、前の世代より減ったとしています。指示にない制約を無視する頻度も下がりました。ただし同じ文書のなかで、承認手続きをすり抜けてしまう場合がまだ残ることや、非常に長い作業や複数AIの連携については検証が十分でないことも認めています。良い面だけを書いていない点は、評価してよいと思います。

Q. 日本語の性能は上がったのか?

多言語の性能は5.0 と同程度、と公式ドキュメントに明記されています。ここは伸びていません。ただし、文章そのものの質については、複数の評価パートナーが「読みやすくなった」「指示した書き方をよく守るようになった」と述べています。

その14用語ミニ辞典

本文に出てきた言葉を、五十音順ではなく、理解しやすい順に並べました。

API(エーピーアイ)
人間がチャット画面で会話するのではなく、プログラムから直接AIを呼び出すための窓口のことです。自社のシステムにAIを組み込むときに使います。日本語では「応用プログラム接続口」などと訳されますが、実務ではそのままAPIと呼びます。
ベンチマーク
AIの実力を測る共通テストのこと。各社が同じ問題を解かせて点数を比べます。学校の模試に近いのですが、AIが問題を事前に見てしまっている可能性(汚染)が常に議論になるので、点数は目安として受け取るのが健全です。
エフォート(考える深さ)
AIにどれだけ時間をかけて考えさせるかの設定です。low・medium・high・xhigh・max の5段階。深いほど賢くなりますが、時間も費用も増えます。5.1 では、会話の途中で切り替えられるようになりました。
キャッシュ
一度読ませた内容を短期間だけ手元に置いて、次からは読み直す手間を省く仕組み。よく使う書類をコピーして引き出しに入れておくイメージです。5.1 では、この引き出しから取り出す料金が4分の1になりました。
セーフガード(安全装置)
危険な使われ方を防ぐための仕組み。あやしいと判断された質問には Fable が答えず、一段下の Opus に自動で回されます。回された分は Fable の高い料金では課金されません。
誤検知(ごけんち)
本当は問題ないのに、安全装置が「危険だ」と誤って判定してしまうこと。火災報知器が料理の湯気で鳴るのと同じです。5.1 の改善の中心がここでした。
蒸留(じょうりゅう)
賢いAIに大量の質問を投げて、その答えや思考の跡を集め、それを教材にして別のAIを育てる手口。まねをされること自体もさることながら、安全装置のない模倣品が世に出ることが問題視されています。5.1 は、この吸い出しを難しくする仕組みを強化しました。
エージェント
AIが1回の指示で自律的に作業を続けること。自分で調べ、道具を使い、失敗したらやり直しながら、何時間も進めます。Fable の主戦場であり、5.1 でいちばん伸びた領域でもあります。
トークン
AIが文章を扱うときの数え方の単位。日本語ではおおむね1文字が1トークン前後です。料金はこの数で決まります。100万トークンは、文庫本にして十数冊ぶんに相当します。
コンテキスト(文脈窓)
AIが一度に覚えていられる量。人間でいう「机の上に広げられる書類の量」です。これを超えると、古い部分から忘れていきます。Fable 5.1 は100万トークンで、5.0 と同じです。
C2PA
画像や動画に「いつ、何で作られたか」という履歴を署名つきで埋め込む国際規格。5.1 が作った画像・動画には、これがつくようになりました。

その15出典

この文書の内容は、以下の公開資料にもとづいています。数値はすべて一次情報(Anthropic の公式発表と公式ドキュメント)から取り、差分の計算はこちらで検算しました。

著者: 藤川忠彦(ふじかわ ただひろ) — 企業向けAI導入アドバイザー、神奈川県茅ヶ崎市。

同じ台に立つ高さの違う三本の柱でFable 5.1の性能向上と下がった支払いを表した表紙画像
FUJIKAWA LAB SPECIMEN 45 / 45