1. はじめに:ドライブが「ただの保管庫」をやめた日
2026年5月、長年「ファイルを置いておく場所」だった Google ドライブが、その役割を大きく変えた3。アイコンが丸みを帯びたグラデーション調へ刷新され、検索ボックスに話し言葉で問いかけるだけで複数のファイルを横断的に要約してくれるようになり、「ドライブ プロジェクト」という新しい単位で資料を束ねて AI と対話できるようになった。日本語を含む 28 言語への対応も 5 月 26 日に完了し、これまで英語圏ユーザーだけが触れていた機能が、私たちの手元でも全面的に使えるようになっている3。
これは単なる機能追加ではない。「ファイルを格納する受動的なクラウドストレージ」から「ファイルの意味を能動的に解釈し、知的作業を統括するインテリジェンス層」への、役割そのものの再定義である3。
本記事は二段構えで書いた。前半(2〜6章)は「とりあえず今日から使い始めるための設定と使い方」を、専門用語をかみ砕きながら案内する。AI ツールに不慣れな方は、まずここだけ読めば自分のドライブで何ができるようになったかが分かる。後半(7〜10章)は「Google はなぜこの設計を選んだのか」を、基盤モデルの選択・データガバナンス・プラットフォーム競争という観点から掘り下げる。組織として導入を検討する立場の方に向けた戦略分析である。
用語ミニ辞典:先に押さえておきたい 6 つの言葉
- Gemini(ジェミニ)=Google が開発している AI の総称。今回の Google ドライブの裏側でも動いている「頭脳」にあたる。
- Gemini 3.5 Flash=Gemini ファミリーの中で「軽くて速い」モデル。今回ドライブの AI 機能の標準エンジンに採用された。
- AIエージェント=指示を待つだけでなく、自分で段取りを組み、複数の作業を続けて実行する AI。「気のきく秘書」に近い存在。
- AI概要(AI Overviews)=ドライブの検索結果の一番上に、AI が複数ファイルを読み込んでまとめた要約を表示してくれる機能。
- ドライブ プロジェクト=既存のフォルダ構成を一切いじらずに、特定のテーマで資料を束ねて AI に「この資料群だけを参照して」と指示できる仮想の作業空間。
- CSE(クライアントサイド暗号化)=ファイルを Google のサーバーに置く前に、利用者側で鍵をかけて暗号化する方式。鍵は Google も持たないため、最も機密性の高い文書を扱うときに使う。
2. 一気に変わった見た目:丸みとグラデーションの「AI らしさ」
パソコンやスマートフォンを起動して、まず気づくのが Workspace(ドライブ・Gmail・ドキュメント・Meet・Chat など)のアイコンが一斉に刷新されている点だ10。5 月 18 日以降、ウェブ・Android・iOS へ順次配信されており、お使いの環境でもおそらくすでに新しいアイコンに置き換わっている。
変化のポイントはふたつ。ひとつは「角がほぼ円形に近いほど丸められた」こと、もうひとつは「複数の色が滑らかに溶け合うグラデーションが採用された」ことだ。Google はこれを「AI グラデーション」と呼んでいる11。単なる流行ではなく、「冷たい機械的なストレージから、ユーザーと対話しながら一緒に作業してくれるパートナーへ役割が変わった」ことを視覚的に伝えるための、意図的なデザイン変更である。アイコンは平均的な働き手が 1 日に数十回以上目にする「最も接触頻度の高い UI」であり、ここに役割変化のシグナルを埋め込む効果は大きい11。
| アプリ | 新アイコンの特徴 | 伝えたいメッセージ |
|---|---|---|
| Google ドライブ | 角が滑らかに丸められ、立体感のある色のグラデーション | 機械的な保管庫から、直感的に扱える知的空間へ |
| Gmail | 赤一色から、Google ブランドカラー全色の連続的なグラデーションへ | 受信トレイが AI によって自分専用に最適化される |
| Google ドキュメント | 青一色から、青と紫が静かに融け合う「オーラ調」へ | AI が共著者として一緒に文章を組み立てる「生きた書類」 |
| Google Meet / Chat | 単色の図形から、黄・緑など光の輪のような色の遷移へ | 人どうしの会話と AI エージェントとのやり取りの境目が溶ける |
3. まず最初にやる 2 ステップ:スマート機能を有効化する
ドライブを開いても「Gemini」というボタンが見当たらない場合、原因のほとんどはひとつだ。Google アカウントの「スマート機能とパーソナライズ」がオフになっている。これは、AI がどこまで自分のデータを参照してよいかを利用者自身が管理するための、いわばセキュリティスイッチである。有効化の手順はシンプルで、所要時間は 1 分もかからない。
3.1 ステップ 1:ドライブの設定画面を開く
パソコンのウェブブラウザで drive.google.com にアクセスし、画面右上にある歯車マーク(設定アイコン)をクリックする。表示されるメニューから「設定」を選ぶ。スマートフォンのアプリではなく、いったんパソコンのブラウザから操作するほうが確実だ。
3.2 ステップ 2:「他の Google サービスのスマート機能とパーソナライズ」をオンにする
設定画面の左側で「全般」タブが選ばれていることを確認し、画面を少し下にスクロールする。「他の Google サービスのスマート機能とパーソナライズ」という見出しの下に、同名のチェックボックスがある。これをオンに切り替え、ウィンドウ最下部の「変更を保存」をクリックすれば作業は完了する。数分以内に、ドライブ画面の上部や右上に Gemini 関連のボタンが現れるようになる。
有効化しても表示されないときは? いったんブラウザのタブを閉じてからドライブを開き直すと反映されることが多い。それでも出ない場合は、所属組織(学校・会社)の Workspace 管理者が機能を制限している可能性がある。組織のアカウントを使っているなら、管理者に確認するのが早道だ。
4. 今日から使える 4 つの中核機能:使い方と、なぜ効くのか
5 月 26 日の一般提供で、日本語環境でも本格的に使えるようになった機能を 4 つに絞って紹介する9。各機能について、まず「どう使うか」を示し、続けて「設計上なぜ重要なのか」を一段だけ掘り下げる。
4.1 AI 概要(AI Overviews in Drive):検索バーが答えを返すようになった
これまでのドライブの検索は、キーワードに合致するファイルの一覧を返すだけだった。新しい AI 概要では、検索バーに話し言葉で質問を入力すると、AI が関連する複数のファイルを瞬時に読みに行き、検索結果の最上部に「自動生成された要約」を表示する4。
たとえば「2026年春のカタログに記載されている価格の変更点は?」と入力すれば、関連するスプレッドシートや PDF を 1 件ずつ開いて目視確認しなくても、変更点だけを抜き出した答えが先に表示される。要約の下には参照元のファイルへのリンクが必ず添えられるので、気になった部分はワンクリックで原典に飛んで確認できる18。この「要約には必ず引用元リンクを添える」という規約は、後述するハルシネーション対策の要でもある。
4.2 Ask Gemini(全画面の対話モード):複数ファイルにまたがる深掘り対話
AI 概要の右側、あるいは画面右上のアイコンから「Ask Gemini」を起動すると、全画面の対話モードに切り替わる3。こちらは特定のファイルやフォルダに焦点を当て、複数のファイルを横断的に深く分析させたいときに使う。
たとえば「過去 3 年分の提案書フォルダ」を対象に指定して、「この期間の提案書に共通する顧客側の懸念点を 3 つ挙げて、予算を抑えるためのアプローチも併せて示してほしい」と依頼する、といった使い方ができる20。これまで人間が半日かけて読み込んでいた整理作業が、数分で骨子のレベルまで降りてくる。AI 概要が「軽い即答」なのに対し、Ask Gemini は「腰を据えた分析」という役割分担だと捉えるとよい。
4.3 ドライブ プロジェクト:テーマ別の「専用机」を仮想で組み立てる
今回もっとも実務インパクトが大きい新概念が「ドライブ プロジェクト」である22。一言で言えば「既存のフォルダ構造を一切いじらずに、横断的に資料を束ねて AI に渡せる仮想の机」だ。
具体的な使い方を例で示そう。新入社員向けの研修担当になったとする。研修で使う資料は、人事フォルダの「就業規則」、総務フォルダの「提出書類フォーマット」、各部署が独自に管理している「業務マニュアル」など、社内のあちこちに点在しているのが普通だ。これらを 1 か所にコピーして集める必要はなく、それぞれの元の場所のまま、「新入社員オンボーディング 2026」というプロジェクトに「参照元」として登録するだけでよい。新入社員はそのプロジェクトを共有してもらえば、AI を介して横断的な質問が自由にできるようになる23。
設計の観点で見ると、これは「物理的な配置(どのフォルダに置くか)」と「意味的な束ね(どのテーマで使うか)」を分離する新しいレイヤーの導入である23。従来のフォルダはあくまで格納場所の抽象化に留まり、横断的な調査単位とは独立していた。ドライブ プロジェクトはこの限界を突破し、デジタル組織論における「知識ベース vs ファイルシステム」という長年の対立に、企業規模での実装解を与えている。
4.4 データソース制御(Scope Control):参照させる範囲を自分で調整する
「Gemini が回答を作るときに、どの範囲のデータを見にいくか」を、自分の手で細かく調整できる機能も入った18。検索設定の中で、参照先として「Gmail の添付ファイル」「Chat にアップロードされた資料」「カレンダーの予定」などをチェックボックス感覚で追加・除外できる。「今は仕事用の資料だけ参照させたい」「あえてカレンダーは外したい」といった切り替えがリアルタイムでできる。
これは「プライバシーバイデザイン」の実装として注目に値する。デフォルトでは参照範囲を最小にしておき、利用者が必要なときだけ能動的に広げる opt-in モデルを採ることで、「便利だが何が参照されているのか分からない」という従来 AI アシスタントの透明性問題に正面から対応している15。
| 機能 | どう使うか | 代表的なユースケース |
|---|---|---|
| AI概要 | 検索バーに自然言語で問うと、最上部に複数ファイルの要約が出る8 | カタログの価格変更点など、横断的な事実確認 |
| Ask Gemini(全画面) | ファイル・フォルダを指定し、横断的に深く分析させる3 | 過去提案書の共通懸念点と予算削減アプローチの抽出 |
| ドライブ プロジェクト | 元の格納場所を変えずに仮想の知識ベースを構成22 | 新人研修パッケージの統合・共有 |
| データソース制御 | Gmail・Chat・カレンダーなど参照ソースをリアルタイム切替18 | 業務/私用の文脈を動的に切り替える |
5. セキュリティと共有:押さえておくべき仕組み
便利な機能が一気に増えると、「情報漏洩は大丈夫なのか」という不安が先に立つ。今回のアップデートでは、利便性と同じくらいセキュリティの設計に手間がかけられている。3 つだけ覚えておけば十分だ。
5.1 「AI が読める」と「人が読める」は別の権限
ドライブ プロジェクトを共有しても、AI が参照する元ファイルへのアクセス権限は通常のドライブのルールが優先される22。つまり、「人事フォルダにそもそも入れない社員」が、プロジェクト経由で AI に問いかけても、人事フォルダのファイル内容を読み取ることはできない。「AI 経由なら横から覗ける」という抜け道は、設計上ふさがれている。AI の権限はあくまで利用者本人の権限の範囲内(真部分集合)でしか動かない、という原則がアーキテクチャ層で守られている3。
5.2 自分の対話履歴は誰にも見せない
プロジェクト内で自分が Gemini と交わしたチャットは、完全に自分専用だ。プロジェクトを共有した相手や、同じプロジェクトを使う別のメンバーから、自分の問いかけや AI の回答が見えることはない22。安心して試行錯誤の質問を投げてよい。
5.3 ファイルは複製されない
Gemini が回答を生成するために、ファイルを裏でコピーしたり、別の場所に複製を作ったりすることはない。スキャンはすべて「その場で」行われる3。企業の情報漏洩防止ポリシー(DLP)や情報権利管理(IRM)に準拠した形で動くため、「AI を使うためにデータが意図せず別の境界へ移動してしまう」という、企業導入で最も警戒される事態が起きない設計になっている。
6. これから来る大きな波:Google I/O 2026 で予告された未来
5 月 19〜20 日に開催された「Google I/O 2026」では、今夏から秋にかけて段階的に提供される、ドライブを起点にしたさらに強力な機能群が予告された13。いま手元で動かせる機能ではないが、「半年後の自分のドライブはこうなる」という地図として知っておくと、現在の機能の使いどころも見えやすくなる。
6.1 Google Pics:画像の「ピンポイント編集」を民主化する
今夏より AI Pro・AI Ultra プランやビジネス版で先行公開される画像生成・編集ツールが「Google Pics」だ。基盤には Google の最新画像生成モデル「Nano Banana」が採用されている13。従来の画像編集 AI は「画像全体を作り直す」しかなかったが、Google Pics は「オブジェクトセグメンテーション」という技術を使い、写真の中の特定の人物や物だけをピンポイントで選択して、「セーターの色だけを赤に変える」「背景の犬を猫に置き換える」といった局所編集ができる26。さらに、写真の中の文字をデザインやフォントを保ったまま編集・翻訳することもでき、これらすべてをドライブやスライド上で複数人による同時編集として行える24。
6.2 Docs Live / Gmail Live:声で話すだけで下書きができる
キーボードを叩く代わりに、声でアイデアをそのまま吐き出すと、AI がそれを論理的な下書きへ自動的に整える機能が「Docs Live」「Gmail Live」だ13。話している途中で AI が「過去の関連スライド」「メールスレッド」「スプレッドシート」をドライブから引っ張り出し、必要なデータを自動で差し込んでくれる14。会議の合間に思いついたことをスマホに向かって話せば、戻った頃には体裁の整った提案書の骨子ができている――そんな使い方が想定されている。「考えてから書く」という順序が、「話せば書かれる」へと変わる。
6.3 Gemini Spark:寝ている間も働く自律エージェント
これらのツールをまとめて、24 時間バックグラウンドで自律的に動くのが「Gemini Spark」である25。パソコンの電源が切れていても、Google Cloud の安全な仮想環境内で動き続ける。具体的なシナリオはこうだ。取引先から請求書 PDF がドライブに届くと、Spark がそれを自動で検知し、内容を読み取り、ドライブ上の「請求管理スプレッドシート」を更新し、変更点をまとめたサマリーを Docs に作成し、確認用のメールを Gmail の下書きに用意する――ここまでを、人の介入なしで完結させる25。
ただし、金銭が動くアクションや影響の大きい処理(メール送信・支払い確定など)は、必ず実行前に「確認のポップアップ」が出る設計になっている5。「自分で段取りは進める。しかし最後の判断は必ず人間に委ねる」――この線引き(Human-in-the-loop)が、自律エージェントを安心して使うための鍵である30。
| 新機能 | 基盤モデル | 主な使い道 | 提供時期 |
|---|---|---|---|
| Google Pics | Nano Banana | ドライブやスライドの画像をピンポイントで編集・翻訳 | 2026 年夏/AI Pro・Ultra、ビジネス向けプレビュー |
| Docs Live | 音声対話エンジン | 声でアイデアを話すだけで下書きを自動生成 | 2026 年夏/AI Pro・Ultra、ビジネス向けプレビュー |
| Gemini Spark | Gemini 3.5 Flash | 24 時間自律で動くパーソナルエージェント | 近日中にビジネス顧客向けプレビュー開始 |
| AI Inbox(Gmail 拡張) | Workspace Intelligence | 返信下書き作成時にドライブ内資料へ自動でリンク | 米国の AI Plus・Pro ユーザー向けに先行展開中 |
ここまでが「今日から使い始めるためのガイド」である。日常利用が目的なら、第 10 章の「今日から踏むべき 3 つの一歩」まで読み飛ばしてもらってかまわない。以下の 7〜9 章は、「Google はなぜこの設計を選んだのか」を掘り下げる戦略分析である。
7. 設計の裏側:なぜ「軽量モデル」Gemini 3.5 Flash を選んだのか
変革の起点に位置するのが、軽量・高速モデルである「Gemini 3.5 Flash」のドライブ標準エンジンとしての採用である5。注目すべきは、Google が最上位の Gemini 3.5 Pro ではなく、あえて軽量モデルを選んだ点だ。フロンティアレベルの推論を要する少数の高度タスクではなく、「数十億人が日常的に行う、ファイル横断的な検索・要約・対話」というロングテールに最適化するための選択である7。
この戦略は、3 つのトレードオフを意識的に解いている。第一に、レイテンシ(応答遅延)の極小化により、「検索バーに話し言葉で問う」というインタラクションを違和感なく成立させる。第二に、推論コストの抑制により、無料層を含む全ユーザー基盤への展開を経済的に成り立たせる。第三に、ハルシネーション(事実誤認)のリスクを「複数ファイルへの引用元リンク表示」という UX で吸収する18。Pro クラスの推論を求める利用者は、別途 Ask Gemini の全画面モードや上位プランへ誘導する階層構造が組まれている19。
もうひとつ見逃せないのが、28 言語の同時一般提供が持つ戦略的意味である3。これまで日本市場における生成 AI の業務適用は、英語版で先行検証された機能を 6〜12 ヶ月遅れで追う「タイムラグ消費」の構造に置かれていた9。今回、英語圏との同時提供が実現したことで、日本のユーザーが先進ユースケースの発信源となる可能性が初めて開かれた。日本語ビジネス文書の量と質、社内ナレッジの蓄積において、日本企業はむしろグローバル平均より高密度な「学習素材」を保有している33。
8. エンタープライズ統治インフラの強化
個人の使い方からは少し離れるが、会社や学校のシステム管理者にとっては、5 月のアップデートに 2 つの大きな機能追加があった。組織として導入を進める立場の方は、これだけは押さえておきたい。
8.1 CSE 一括インポートの一般提供:ゼロトラスト移行の完成形
ベータ提供されていた「クライアントサイド暗号化(CSE)」適用ファイルの一括インポートと Drive API の組み合わせが、5 月のアップデートで一般提供に移行した34。これにより、オンプレミスや他社クラウドに格納された極めて機密性の高い文書群を、企業管理者だけが暗号化キーを保持した状態で、Google ドライブへ一括移行できるようになった。Google 側を含む外部の誰も中身を見られない「ゼロトラスト」運用を、移行時点から完全に維持できる34。これは、クラウドの利便性と機密性の両立という「移行のジレンマ」への構造的な回答である。
8.2 AI Control Center:プロジェクト単位のガバナンスポリシー
新設の「AI Control Center」管理コンソールにより、社内文書・データ資産に対する生成 AI および各種 AI エージェントのアクセス範囲を、プロジェクトやフォルダ単位で詳細かつ一元的に制御できるようになった34。これは、業界横断的なコンプライアンス要件(GDPR、HIPAA、金融商品取引法、医療情報保護等)に対して、「AI のアクセス可否」を従来のアクセス制御とは独立したレイヤーとして管理できる、初の本格的実装である。金融・医療・公的機関のような規制の厳しい業界でも、安全に AI を社内展開できる土台が整った。
9. 戦略的含意:プラットフォーマー競争におけるドライブの再定位
本アップデートを総合すると、Google ドライブの戦略的ポジションは「Microsoft OneDrive・Dropbox と競合するクラウドストレージ」から、「Microsoft Copilot や Notion AI、Glean と競合するナレッジ統合プラットフォーム」へと、一段昇格したと評価できる28。競争軸はストレージ容量や同期速度ではなく、「保有データに対する AI 推論の質と速度」へ移った。
その中で、ドライブは Gemini エコシステムの「データの重力中心(gravity well)」としての役割を担う28。Gemini Spark、Docs Live、Google Pics、AI Inbox といった上位のエージェント機能は、いずれもドライブ内のファイル群を参照ソースおよび出力先として動作する25。すなわち、ドライブにデータを集約すればするほど、Gemini 系エージェントの実用価値が増大する正のフィードバックループが形成される。これは、Google が長年蓄積してきた「無料・大容量・シームレス同期」というドライブの基盤価値を、AI 時代の競争優位へ翻訳する戦略であり、AWS が S3 を起点に AI/ML サービスを積層したのと類似のパターンとして読める。
ただし運用面では注意も要る。初期検証では、AI が古い書類からも高精度に実績数値を抽出する一方、元書類に存在しない数値を事実のように回答するハルシネーションの発生も確認されている23。これに対する設計上の答えが、「すべての要約に参照元ファイルへのリンクを必須で添える」という UX 規約だ18。AI の出力を「断定的な回答」ではなく「リンクを起点とした検証の出発点」として再定義することで、リスクを利用者の確認行動で吸収させている。企業利用では、引用元リンクの目視確認を運用ルールとして明文化することが、信頼性確保の前提条件となる。
10. まとめ:今日から踏むべき 3 つの一歩
2026 年 5 月のアップデートは、Google ドライブを「ファイルの保管庫」から「内容を理解して一緒に作業してくれる相棒」へと、性格そのものを変えた3。難しい設定や専門知識は必要ない。日常語で話しかける、それだけで動く設計になっている。最後に、今日から踏むべき 3 つのステップをまとめておく。
- 「スマート機能とパーソナライズ」をオンにする。 これがすべての出発点になる。所要時間は 1 分。
- 普段の業務テーマで「ドライブ プロジェクト」を 1 つ作ってみる。 いきなり大規模に使い始めるのではなく、ひとつのテーマで小さく試して感触をつかむのが近道。
- AI の回答は必ず参照元リンクで裏取りする。 便利だが、まれに「もっともらしい誤情報」を返すこともある。重要な数字や事実は、必ず引用元のファイルを開いて目視確認する習慣をつけたい。
これらの基本操作に慣れておくことが、今夏以降に来る「Google Pics」「Gemini Spark」といった、さらに強力な自律エージェントの波を最大限に活かすための準備運動になる。組織として今取り組むべきは、これらの機能を待つことではなく、既に一般提供された AI 概要・Ask Gemini・ドライブ プロジェクト・データソース制御を、運用ルールとともに小規模に試行し、自社固有のユースケースとガバナンスポリシーを構築する第一歩を踏み出すことである22。難しい変化を構えて待つのではなく、まずは小さく手を動かしてみることが、いちばんの近道である。
引用文献 — References
- Drive FAQ for admins | Drive & Docs - Google Workspace Help, 5月 26, 2026にアクセス、 https://knowledge.workspace.google.com/admin/drive/drive-faq-for-admins
- Collaborate With Real-Time Editing | Google Workspace, 5月 26, 2026にアクセス、 https://workspace.google.com/resources/real-time-editing/
- Ask Gemini in Drive now generally available - Google Workspace Updates, 5月 26, 2026にアクセス、 https://workspaceupdates.googleblog.com/2026/04/ask-gemini-in-drive-now-generally-available.html
- 「Google ドライブ」に「AI概要」機能が追加 ~複数ファイルの内容を把握して要約 - 窓の杜, 5月 26, 2026にアクセス、 https://forest.watch.impress.co.jp/docs/news/2104995.html
- Everything Google announced at I/O 2026: Gemini 3.5, Omni, Spark, and the Search that's changed forever, 5月 26, 2026にアクセス、 https://timesofindia.indiatimes.com/technology/tech-news/everything-google-announced-at-i/o-2026-gemini-3-5-omni-spark-and-the-search-thats-changed-forever/articleshow/131218550.cms
- Google I/O 2026: From AI agents to smart glasses, here are the biggest announcements, 5月 26, 2026にアクセス、 https://indianexpress.com/article/technology/tech-news-technology/google-i-o-2026-gemini-biggest-annoucements-10698450/
- Google I/O 2026 highlights: An AI overhaul in Google Search, Gemini 3.5-Flash, Antigravity 2.0, Android XR smart glasses announced, 5月 26, 2026にアクセス、 https://www.financialexpress.com/life/technology-google-io-2026-live-updates-gemini-ai-upgrade-android-17-features-xr-smart-glasses-latest-news-4244729/
- AI Overviews in Drive now generally available - Google Workspace Updates, 5月 26, 2026にアクセス、 https://workspaceupdates.googleblog.com/2026/04/ai-overviews-in-drive-now-generally-available.html
- 「Google ドライブ」の「Ask Gemini in Drive」機能が一般提供に ~日本語にも対応 - 窓の杜, 5月 26, 2026にアクセス、 https://forest.watch.impress.co.jp/docs/news/2105405.html
- Google ドライブやGmailなどでアイコンデザインが刷新 - ケータイ Watch, 5月 26, 2026にアクセス、 https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/news/2111668.html
- Google's Workspace icons just got the 'AI gradient' treatment - Fast Company, 5月 26, 2026にアクセス、 https://www.fastcompany.com/91545582/google-workspace-icons-redesign
- Google ドライブやGmailなどでアイコンデザインが刷新 - ライブドアニュース, 5月 26, 2026にアクセス、 https://news.livedoor.com/topics/detail/31374042/
- All the new features coming to Google Workspace, announced at Google I/O 2026 | Mashable, 5月 26, 2026にアクセス、 https://mashable.com/article/new-google-workspace-features-google-io-2026
- Google Just Announced a Bunch of Workspace Features at I/O 2026 | Lifehacker, 5月 26, 2026にアクセス、 https://lifehacker.com/tech/google-just-announced-a-bunch-of-workspace-features-at-io-2026
- 【Google ドライブ】 Gemini サイドパネルの使い方と活用法を解説 - rakumo, 5月 26, 2026にアクセス、 https://rakumo.com/gsuite/gws-hint/gemini/sidepanel-drive/
- Gemini in Google ドライブを使用して動画の内容をすばやく理解する, 5月 26, 2026にアクセス、 http://workspaceupdates-ja.googleblog.com/2025/06/gemini-in-google.html
- ユーザーの Gmail の設定を管理する - Google Workspace Help, 5月 26, 2026にアクセス、 https://knowledge.workspace.google.com/admin/gmail/manage-gmail-settings-for-your-users?hl=ja
- Search & retrieve your files in Drive with Gemini - Computer - Google Help, 5月 26, 2026にアクセス、 https://support.google.com/drive/answer/16685111?hl=en&co=GENIE.Platform%3DDesktop
- Get started with Gemini in Google Drive - Computer, 5月 26, 2026にアクセス、 https://support.google.com/drive/answer/16686008?hl=en&co=GENIE.Platform%3DDesktop
- Use Gemini in Drive for research & analysis - Computer - Google Help, 5月 26, 2026にアクセス、 https://support.google.com/drive/answer/16963068?hl=en&co=GENIE.Platform%3DDesktop
- Use Gemini in Drive for research & analysis - Android - Google Help, 5月 26, 2026にアクセス、 https://support.google.com/drive/answer/16963068?hl=en&co=GENIE.Platform%3DAndroid
- ドライブのプロジェクトを使用して Gemini のソースを共有する, 5月 26, 2026にアクセス、 https://support.google.com/drive/answer/16684520?hl=ja
- Googleドライブにプロジェクト機能??大型アップデートがきた - note, 5月 26, 2026にアクセス、 https://note.com/namakeguma07/n/nc607db42df40
- Google adds Docs Live and Google Pics in Workspace AI update - EdTech Innovation Hub, 5月 26, 2026にアクセス、 https://www.edtechinnovationhub.com/news/google-adds-docs-live-and-google-pics-in-workspace-ai-update
- Google wants Gemini to work while you sleep: Check biggest new features announced at I/O 2026, 5月 26, 2026にアクセス、 https://www.livemint.com/technology/tech-news/google-wants-gemini-to-work-while-you-sleep-check-biggest-new-features-announced-at-i-o-2026-11779220097266.html
- Google Pics Lets You Use AI to Edit Specific Parts of an Image | PCMag, 5月 26, 2026にアクセス、 https://www.pcmag.com/news/google-io-pics-lets-you-use-ai-to-edit-specific-parts-of-an-image
- New ways to create and get things done in Google Workspace, 5月 26, 2026にアクセス、 https://blog.google/products-and-platforms/products/workspace/workspace-updates/
- Innovations from Google I/O 26 on Google Cloud | Google Cloud Blog, 5月 26, 2026にアクセス、 https://cloud.google.com/blog/products/ai-machine-learning/innovations-from-google-io-26-on-google-cloud
- Google Launches AI-Powered 'Pics' App for Image Editing and Design : r/DailyTechBytes, 5月 26, 2026にアクセス、 https://www.reddit.com/r/DailyTechBytes/comments/1tivg87/google_launches_aipowered_pics_app_for_image/
- Google I/O 2026: Google Enters Its 'Agentic Gemini Era', 5月 26, 2026にアクセス、 https://m.economictimes.com/magazines/panache/google-i/o-2026-google-enters-its-agentic-gemini-era/articleshow/131208621.cms
- Innovations from Google I/O 26 on Google Cloud | Google Cloud 公式ブログ, 5月 26, 2026にアクセス、 https://cloud.google.com/blog/ja/products/ai-machine-learning/innovations-from-google-io-26-on-google-cloud
- Google Workspace Updates Weekly Recap - April 24, 2026, 5月 26, 2026にアクセス、 https://workspaceupdates.googleblog.com/2026/04/weekly-recap-04-24-2026.html?m=1
- Google I/O 2026 のアップデート、日本語ユーザーが今週から使えるのはどれか - note, 5月 26, 2026にアクセス、 https://note.com/cozy_cosmos5698/n/n1e4d6fff66fc
- Google Workspace Updates Weekly Recap - May 8, 2026, 5月 26, 2026にアクセス、 https://workspaceupdates.googleblog.com/2026/05/weekly-recap-05-08-2026.html
- Search & retrieve your files in Drive with Gemini - Android - Google Help, 5月 26, 2026にアクセス、 https://support.google.com/drive/answer/16685111?hl=en&co=GENIE.Platform%3DAndroid