現代のソフトウェア開発において、人工知能(AI)の役割は「単なる質問応答システム」から「自律的に作業を遂行するエージェント」へと劇的な進化を遂げている。その最前線に位置し、Google が提供する次世代 AI プラットフォームの根幹を成すのが「Antigravity CLI」である1。本稿は、「ターミナル」と呼ばれる黒い画面のツールに一度も触れたことがない完全な初心者を対象に、Antigravity CLI の概念的背景、詳細な導入手順、安全な認証プロセス、そして実際の運用やトラブルシューティングに至るまでを、平易な表現で網羅的に解説するものである。
1. 序論:次世代のソフトウェア開発と Antigravity CLI の登場
自律型 AI エージェントとは何か
従来の生成 AI(例えば一般的なチャットボット)は、ユーザーが入力した質問に対してテキストを返すだけの受動的な存在であった。これに対して Antigravity CLI が内包する「自律型 AI エージェント」は、ユーザーが与えた目標(例:特定のファイルを整理してほしい、新しいプログラムの雛形を作ってほしい)を達成するために、AI 自身が複数の手順を論理的に推論し、自ら計画を立てて実行に移す能力を備えている2。AI エージェントは、ユーザーの許可を得た上でコンピュータ内のファイルを直接読み書きし、さらにはプログラムを実行してその結果を検証するといった、極めて高度な操作をバックグラウンドで並行処理することができる1。
Gemini CLI からの世代交代と Antigravity エコシステム
Google はかつて「Gemini CLI」という名称で同様のコマンドラインツールを提供していたが、技術の進歩に伴い、2026年6月18日をもって個人向けの無料ユーザーおよび Google AI Pro/Ultra ユーザーに対する Gemini CLI のサービス提供を終了することを決定した6。この終了に伴い、すべてのユーザーは新たな中核ツールである「Antigravity CLI」への移行が必須となっている。
Antigravity CLI は、旧来の Gemini CLI から単に名前が変わっただけではない。内部のプログラム言語が高速な処理を得意とする「Go 言語」で完全に再構築されており、非常に軽量かつ高速に動作するように設計されている6。さらに、Google は Antigravity プラットフォーム全体で単一の「エージェント・ハーネス(Agent Harness)」と呼ばれる共通の AI 頭脳を採用している。これにより、デスクトップアプリケーションである「Antigravity 2.0」を利用している場合でも、ターミナル向けの「Antigravity CLI」を利用している場合でも、全く同じ高度な推論能力と設定同期の恩恵を受けることができる2。
2. ターミナル(CLI)という操作環境の基礎理解
初心者が最初に直面する最大の心理的障壁が、「ターミナル」と呼ばれる黒い画面に対する恐怖心である。普段我々が使用している Windows や macOS の画面は、マウスを使ってアイコンやボタンをクリックして操作する「GUI(Graphical User Interface)」と呼ばれる視覚的な環境である。一方、ターミナルはマウスを一切使わず、キーボードから文字列(コマンド)を打ち込むことだけでコンピュータと対話する「CLI(Command Line Interface)」と呼ばれる環境である1。
一見すると時代遅れで難解に思える CLI 環境であるが、プロの技術者がこれを愛用するのには明確な理由がある。グラフィックを描画するための処理が不要なため、動作が極めて軽量であり、コンピュータの本来の処理能力を最大限に引き出すことができるためである1。さらに、マウスに持ち替えることなく、キーボードの入力だけで複雑な指示を瞬時に完結できるため、作業効率が圧倒的に向上する7。
特筆すべき点として、Antigravity CLI は単なる文字の羅列が流れるだけの古いターミナルツールではなく、「TUI(Terminal User Interface)」という技術を採用している1。これは、文字しか表示できないはずのターミナル画面上に、特殊な文字記号を組み合わせて擬似的に「枠線」や「スクロールバー」「設定メニュー」などを描き出し、視覚的にも操作しやすい画面を構築する技術である。これにより、初心者のキーボード操作に対する負担が大きく軽減されており、まるで通常のアプリケーションを操作しているかのような直感的な体験が可能となっている2。
3. ターミナルの起動:第一歩を踏み出す
Antigravity CLI を導入するためには、まず自身のコンピュータでターミナルを起動する必要がある。OS(オペレーティングシステム)によって起動方法や使用する標準ツールが異なるため、自身の環境に合わせた手順を実行する。
macOS におけるターミナルの起動
macOS には、標準で「ターミナル」というアプリケーションが組み込まれている。最も迅速な起動方法は、macOS の検索機能である「Spotlight 検索」を利用することである。キーボードの Command (⌘) キーを押しながら Space キーを押すと、画面中央に検索バーが表示される。そこに「ターミナル」または「Terminal」と入力し、検索結果の最上位に表示されたアイコン(黒い四角形に「>_」と書かれたアイコン)を選択して Enter キーを押す。白または黒の背景に自身のユーザー名が記載され、カーソルが点滅しているウィンドウが開けば、それがターミナル環境である。
Windows におけるターミナルの起動(PowerShell の利用)
Windows において CLI 環境を利用する場合、「コマンドプロンプト(CMD)」という古い世代のツールと、「PowerShell」という現代的で高機能なツールの 2 種類が存在する。Antigravity CLI の導入やその後の運用においては、より柔軟な処理が可能な「PowerShell」を使用することが公式ドキュメントでも強く推奨されている6。
起動手順としては、画面左下のスタートボタン(Windows ロゴ)をクリックし、検索窓に「PowerShell」と入力する。検索結果に表示された「Windows PowerShell」をクリックして起動すると、青色または黒色の背景に PS C:\Users\あなたのユーザー名> といった文字列が表示され、カーソルが点滅する画面が現れる。これが Windows におけるターミナル環境である。
4. Antigravity CLI のインストール手順と裏側の仕組み
ターミナルが開いたら、いよいよ Antigravity CLI をコンピュータにダウンロードし、インストールする作業に入る。ここからは、画面に特定の「コマンド(命令文)」をコピーして貼り付け、Enter キーを押すだけで、システムの裏側で自動的にダウンロードと配置が進行する。
OS 別のインストールコマンドの実行
OS ごとに異なる専用のインストールコマンドが用意されている。以下の表から、自身の環境に合致するコマンドを選択し、ターミナルに貼り付けて実行する。
| OS 環境 | 使用ツール | 実行するインストールコマンド | インストール先パス |
|---|---|---|---|
| macOS / Linux | Terminal | curl -fsSL https://antigravity.google/cli/install.sh | bash |
~/.local/bin/agy |
| Windows | PowerShell | irm https://antigravity.google/cli/install.ps1 | iex |
C:\Users\<ユーザー名>\AppData\Local\agy\bin |
注釈:Windows 環境で PowerShell が利用できず、旧式のコマンドプロンプト(CMD)をどうしても使用しなければならない場合は curl -fsSL https://antigravity.google/cli/install.cmd -o install.cmd && install.cmd && del install.cmd を実行するが、基本的には PowerShell の利用が推奨される11。
初心者にとって、得体の知れない文字列を実行するのは強い不安が伴う。そこで、このコマンドが裏側で何を行っているのかを解剖しておく。macOS の curl コマンドや Windows の irm コマンドは、どちらも「インターネット上の指定された URL(この場合は Google のサーバー)から、ファイルを安全にダウンロードしてくる」ための命令である6。そして、その後に続く | bash や | iex という記号と文字列は、「ダウンロードしてきたプログラムをコンピュータ内に保存するだけでなく、そのまま実行して初期設定を自動的に完了させる」という指示を意味している11。つまり、手動でウェブサイトからインストーラーをダウンロードし、アイコンをダブルクリックして「次へ」を何度も押すという GUI 環境での煩雑な作業を、このたった一行のコマンドがすべて全自動で代行しているのである。
【重要】環境変数「PATH」の概念と再起動の必要性
インストールが完了し、画面に成功のメッセージが表示された後、すぐに次の作業に移ろうとすると、初心者の多くが特定の壁にぶつかる。それが「環境変数 PATH(パス)」と呼ばれるシステム設定の壁である。
コンピュータは、ユーザーがターミナルで「あるプログラムを実行して」と命令した際、コンピュータ内の何万というすべてのフォルダを一つずつ探して回るわけではない。あらかじめ OS に「プログラムを探すべき重要なフォルダのリスト」が登録されており、このリストのことを「PATH」と呼ぶ。Antigravity CLI のインストールプログラムは、プログラム本体を特定のフォルダ(例:~/.local/bin や AppData\Local\agy\bin)に配置したあと、この PATH のリストに新しいフォルダの場所を自動的に追加する処理を行ってくれる10。
しかし、ここに一つの落とし穴が存在する。現在開いているターミナル(PowerShell など)は、「ターミナルを開いた時点での古い PATH のリスト」を記憶し続けているのである。そのため、インストールプログラムが裏でリストを更新しても、現在開いているターミナルはそれに気付かず、古いリストを参照し続けてしまう10。
その結果、インストール直後に起動コマンドを入力しても、「コマンドが見つかりません(The term 'agy' is not recognized / command not found)」というエラーが発生してしまう10。この現象に遭遇した場合も、決してインストールが失敗したわけではない。一度ターミナルのウィンドウ(またはタブ)を右上の「×」ボタンで完全に閉じ、もう一度新しくターミナルを開き直すだけで、ターミナルが新しい PATH のリストを読み込み、正常に動作するようになる13。
5. 初回起動と Google OAuth を用いた安全な認証プロセス
新しいターミナルを開き直し、パスが正しく認識される状態になれば、いよいよ Antigravity CLI を起動し、Google アカウントとの紐づけ(認証)を行う。これにより、ローカルのコンピュータと Google の AI モデルが安全な通信を確立する。
起動コマンドの実行とログイン方法の選択
新しく開いたターミナルに、以下の極めて短い起動コマンドを入力して Enter キーを押す6。
agy
これが Antigravity CLI を呼び出すための合言葉である。初回起動時、ターミナル上には Welcome to the Antigravity CLI というテキストアートが表示され、対話形式のセットアップ画面が開始される15。画面には、以下のようにログイン方法を選択するメニューが表示される。
Welcome to the Antigravity CLI.
You are currently not signed in. Select login method:
1. Google OAuth
2. Use a Google Cloud project
[Use arrow keys to navigate, Enter to select]
初心者は、キーボードの上・下矢印キー(↑・↓)を使って 1. Google OAuth を選択し、Enter キーを押して決定する15。これは、普段利用している個人の Google アカウントを用いて、最も標準的で安全にログインするための選択肢である。
ブラウザでの認証とトークンの引き渡し
Enter キーを押した瞬間、背後で待機していたウェブブラウザ(Google Chrome や Edge など)が自動的に起動し、見慣れた Google のログイン画面が表示される3。ここで自身の Google アカウントのメールアドレスとパスワードを入力し、Antigravity CLI があなたのアカウントを代行して AI エンジンにアクセスするための権限を「許可」する。
すべての許可プロセスが完了すると、ブラウザの画面上に「英数字が複雑に並んだワンタイム認証コード」が表示される10。このコードは、あなたのアカウントが正しく認証されたことを証明する一時的な鍵のようなものである。マウスでこの文字列をドラッグしてコピーし、開きっぱなしになっているターミナルの画面に戻り、所定の入力欄にペースト(貼り付け)して Enter キーを押す15。この一連の作業により、ターミナルは Google のサーバーと強固に結びつく。
OS キーリングによる高度なセキュリティ保管
初心者が疑問に思う点として、「毎回この面倒なブラウザ認証を行わなければならないのか?」というものがある。結論から言えば、この作業は初回の一度きりである。
Antigravity CLI は、受け取った認証情報(トークン)を単なるテキストファイルとして保存するような危険なことは行わない。OS に元々備わっている「キーリング(macOS の場合は Apple Keychain、Windows の場合は Credential Manager、Linux の場合は Secret Service)」と呼ばれる、銀行の金庫のような暗号化された安全な領域にトークンを自動的に保管する3。次回以降 agy コマンドを実行した際は、CLI がこの金庫に無音でアクセスし、瞬時にログインを完了させるため、ユーザーはブラウザを開くことなく即座に作業を再開できる構造となっている12。もし利用を停止し、認証情報をこの金庫から完全に消去したい場合は、プロンプトに /logout と入力するだけで、安全に初期状態に戻すことが可能である3。
6. ワークスペースの信頼とセキュリティ(ターミナル・サンドボックス)
認証が完了すると、ターミナル上での初期設定がさらに進行する。まず、画面の見栄えを決める「カラースキーム(配色テーマ)」の選択を求められるので、矢印キーで好みの色を選び Enter で決定する1。次に、利用規約(Terms of Service)が表示されるため、内容を確認して同意する3。
そして、セットアップの最終段階において、初心者が最も注意を払うべき極めて重要なセキュリティ確認が行われる。画面に以下のような警告メッセージが表示される11。
Accessing workspace: /Users/あなたの名前/現在のフォルダ名
Do you trust the contents of this project?
Antigravity CLI requires permission to read, edit, and execute files here.
1. Yes, I trust this folder
2. No, exit
この確認画面は、「現在ターミナルが開いているこのフォルダ(プロジェクトディレクトリ)に対する、読み書きの権限を AI エージェントに与えてよいか?」をユーザーに問いかけている。Antigravity CLI の AI は、単に質問に答えるだけでなく、ユーザーの代わりに「新しいファイルを作成する」「既存のコードを書き換える」「システムコマンドを実行する」といった非常に強力な物理的操作を実行する能力を持っている2。もし AI がコンピュータ内のあらゆる場所に無制限にアクセスできてしまうと、ユーザーの意図しない挙動によって、OS の根幹に関わる重要なシステムファイルを誤って削除したり、書き換えたりしてしまう重大なリスクが生じる3。
このリスクを根本から防ぐため、Antigravity CLI には「ターミナル・サンドボックス」と呼ばれる保護機構が組み込まれている5。サンドボックス(砂場)とは、AI が自由に作業してよい空間を、現在のフォルダとその中身だけに厳密に制限する仕組みである。Linux の nsjail、macOS の sandbox-exec、Windows の AppContainer といった OS ネイティブのセキュリティ機能を活用し、AI が指定されたフォルダの外側にあるファイルにアクセスしたり、不正なネットワーク通信を行ったりすることを物理的に遮断している5。
現在開いているフォルダのパスを確認し、AI に作業を任せても問題のない場所であれば、矢印キーで Yes, I trust this folder(はい、このフォルダを信頼します)を選択し、Enter キーを押す15。これにより、AI が現在のフォルダ内をインデックス(目次化)し、作業を開始する準備がすべて整う11。
7. TUI 画面の構造と基本的なプロンプト操作
すべての設定が完了すると、ターミナルの最下部に「プロンプトボックス」と呼ばれる文字入力欄が表示される。ここが、自律型 AI エージェントとの対話の入り口となる11。
TUI の画面レイアウト
TUI 環境における画面は、視覚的にいくつかの領域に分割されている。画面の大部分を占めるのが、AI との過去のやり取りが表示される履歴エリアである。その直下には、AI が現在どのような推論を行っているかを示すステータスラインが表示され、最下部にユーザーが指示を打ち込むプロンプトボックスが配置されている1。
チャットツールを利用するように、日常的な自然言語(人間の言葉)で AI に依頼内容を打ち込むことができる。例えば、プロンプトボックスに「人工知能に関する有名な名言と、それを誰が言ったかを教えてください。」と入力し、Enter キーを押すと、AI が依頼を解釈し、情報を取りまとめて画面上に結果を出力する15。プロンプトの入力途中で改行を行いたい場合は、単純に Enter を押すとそのまま送信されてしまうため、Alt + Enter(または Shift + Enter)を使用することで、送信せずに文中で改行を入れることができる16。
ターミナル上で活躍する機能と必須ショートカット
Antigravity CLI の真価は、別のウィンドウやアプリケーションに切り替えることなく、ターミナル上ですべての操作が完結することにある1。初心者が直感的な操作を行うために覚えておくべき重要なコマンドとショートカットを以下の表に整理する。
| 操作目的 | コマンド / ショートカット | 詳細解説 |
|---|---|---|
| CLI の終了 | /exit または Ctrl + D |
作業を終えて Antigravity CLI のセッションを完全に終了し、通常のターミナルに戻るための安全な手段16。 |
| 設定メニューの展開 | /config または /settings |
文字色、権限の制限、テーマなどを変更するための全画面オーバーレイメニューを呼び出す。直感的なインターフェースで設定できる1。 |
| ファイルの添付 | @(プロンプト内で入力) |
記号を打ち込むと、現在のフォルダ内にあるファイルの一覧(ファイルピッカー)が表示される。AI に特定のコードやドキュメントを読み込ませる際に必須6。 |
| シェルの直接実行 | !(プロンプトの先頭に入力) |
AI を介さず、ユーザーが直接コンピュータに対してターミナルコマンド(例:! ls や ! dir)を実行するための即時実行モード6。 |
| 強制キャンセル | Esc または Ctrl + C |
AI が長大な文章を出力している途中でそれを中断したい場合や、誤って開いてしまったメニューを瞬時に閉じるためのエスケープ操作16。 |
一歩進んだ活用:サブエージェントによる並列処理(/agents)
Antigravity CLI には、複雑で大規模なタスクを効率的に処理するための「サブエージェント(Subagents)」という高度な機能が搭載されている1。メインの AI エージェントに大きな目標を与えると、AI は自らの判断でタスクを細分化し、裏側で複数の小さな AI(サブエージェント)を起動して並行処理を行わせる1。
このとき、ユーザーのターミナル画面がフリーズして作業が止まることはない。バックグラウンドで処理が進行している間、ユーザーがプロンプトボックスに /agents と入力すると、現在裏側で動いているサブエージェント群の状況を一覧で監視する専用のステータスパネルが展開される1。もしサブエージェントがファイルの削除やコマンドの実行といった重要な操作を行おうとした場合、パネル上に「Fast Path Alert」と呼ばれる警告が表示され、ユーザーの承認(y キーでの許可など)を求める仕組みとなっており、自律性と安全性が高度に両立されている5。
8. 運用上の壁:初心者が直面するエラーとその解決策
ターミナルという性質上、GUI アプリケーションとは異なる特有のトラブルやエラーメッセージに直面することがある。ここでは、導入時や運用時に初心者が陥りやすい代表的な不具合とその技術的な背景、および具体的な解決手順を解説する。
環境変数 PATH の未反映による「コマンドが見つからない」エラー
前述の通り、インストール直後に agy: command not found(Mac/Linux)や The term 'agy' is not recognized(Windows)と表示されるエラーは、最も頻出するトラブルである13。インストールプログラムは所定のディレクトリ(~/.local/bin や AppData\Local\agy\bin)にバイナリファイルを正しく配置しているものの、現在起動しているシェルのセッションがその新しい経路(PATH)を認識していないことが原因である10。この場合、ターミナルを完全に再起動するか、シェル設定ファイル(.bashrc や .zshrc など)を再読み込みすることで即座に解消される13。
Windows 環境における「実行中(Running...)」のまま固まる現象
Windows 環境特有の深刻なバグとして、AI にコマンドの実行を許可した直後、画面の表示が「Running...」のままフリーズし、次の処理に進まないという現象が報告されている18。この問題の根底には、Antigravity CLI が内部で行っている「パスの文字列比較」の論理的欠陥が存在する。
Windows のファイルシステムは大文字と小文字を区別しないため、c:\Projects\ と C:\Projects\ は全く同じ場所を指す。しかし、CLI の内部システムはこれらを「厳密な文字列の一致」で判定しているため、システム内部で小文字の c: として記録されているワークスペースパスと、ターミナルから返ってくる大文字の C: のパスが一致しないと判断し、「指定されたディレクトリへの移動が完了していない」と勘違いして無限ループに陥ってしまうのである19。このフリーズ現象を回避するためには、ターミナルを開く際やフォルダを移動する際に、必ずドライブ文字を大文字(例:cd C:\Projects\...)で明示的に指定して作業を開始する必要がある19。
Windows 環境でのインストール失敗(パスが長すぎるエラー)
さらに Windows 特有の課題として、インストール時に「Failed to create file handle(ファイルハンドルの作成に失敗しました)」というエラーメッセージが出力され、インストールが異常終了するケースがある20。これは、Windows の歴史的なシステム制限である「ファイルパスの長さが 260 文字を超えてはならない(MAX_PATH 制限)」という仕様に起因する。Antigravity CLI が展開しようとする依存ファイルのディレクトリ階層が深すぎたために、OS 側がファイルの作成を拒否してしまうのである20。これを解決するには、Windows のレジストリエディタまたはグループポリシーエディタから「長いパス(Long Paths)のサポートを有効化する」設定を手動で行う必要がある20。
キーリングのロックアウトとヘッドレス環境での認証失敗
CLI 起動時に keyring: secure lock out または failed to persist token to keyring というエラーメッセージが表示され、毎回ブラウザでのログインを強要される場合がある14。これは、OS のパスワード保管庫(キーチェーンなど)がロックされているか、CLI からのアクセス権限が拒否されている状態を示す14。
このエラーは特に、WSL(Windows Subsystem for Linux)や Docker コンテナのような「ヘッドレス環境(GUI を持たないサーバー環境)」で実行した場合に頻発する。これらの環境には標準的な D-Bus セッションや GNOME Keyring が存在しないため、CLI がトークンの保存先を見失ってしまうのである21。一般的なローカル環境であれば、一度 /logout コマンドでキャッシュをパージし、キーチェーンのアクセス制御設定から agy を手動で許可リストに追加することで復旧可能である3。しかし、WSL 環境のユーザーは、サードパーティ製の pass ツールを用いた回避策を講じるか、公式パッチの提供を待つ必要があるなど、現状では高度な対応が求められる点に留意したい21。
9. 結論:ターミナル環境における AI 協働の未来
ターミナル環境は、マウス操作に慣れ親しんだ初心者にとっては無機質でとっつきにくいものに見えるかもしれない。しかし、その根底にあるのは「人間の言葉(コマンド)を、一切の無駄なくコンピュータの深淵に直接届ける」という極めて合理的かつ強力な思想である。
Antigravity CLI は、この洗練されたターミナル環境に「AI エージェントの自律的な推論能力と物理的な実行力」を融合させた、まさに次世代のプラットフォームである2。本ガイドで解説した手順に沿って、インストールコマンドの意味を理解し、環境変数 PATH の挙動を把握し、安全な OAuth 認証を確立し、そしてサンドボックスを通じたワークスペースの厳格な管理を行うことで、ターミナル経験の有無にかかわらず、誰もがこの強大な AI の恩恵をローカルコンピュータ上で安全に享受できるようになる。
直面する可能性のあるエラーに対しても、その技術的な背景(例えば Windows のパス仕様やキーリングの仕組み)を理解しておくことで、冷静に対処することが可能となる。AI エージェントを単なる質疑応答の道具としてではなく、共に開発や業務を推進する「自律的な同僚」として迎え入れるため、本ガイドがターミナル環境への確実な第一歩となることを期待する。
引用文献 — References
- Antigravity CLI, https://antigravity.google/product/antigravity-cli
- Antigravity CLI Overview - Google Antigravity Documentation, https://antigravity.google/docs/cli-overview
- Antigravity CLI - GitHub, https://github.com/google-antigravity/antigravity-cli
- 【無料で使える】個人向けAIエージェント11選!自律型と構築系を徹底比較 - SHIFT AI, https://shift-ai.co.jp/blog/60565/
- Google Antigravity CLI features, https://antigravity.google/docs/cli-features
- Gemini CLI廃止ガイド — Antigravity CLIへの移行手順と6月18日期限 - Qiita, https://qiita.com/kai_kou/items/ac09d94c1ee95faba8f4
- An important update: Transitioning Gemini CLI to Antigravity CLI - Google Developers Blog, https://developers.googleblog.com/an-important-update-transitioning-gemini-cli-to-antigravity-cli/
- Gemini CLI廃止と移行方法|Antigravity CLI完全ガイド・6月18日期限・インストール・Claude Codeとの比較 - AI革命株式会社, https://ai-revolution.co.jp/media/gemini-cli-antigravity-migration/
- サーフェスの選択: Antigravity 2.0、Antigravity CLI、Antigravity IDE、Antigravity SDK - Google Cloud 公式ブログ, https://cloud.google.com/blog/ja/topics/developers-practitioners/choosing-your-surface-antigravity-20-antigravity-cli-antigravity-ide-or-antigravity-sdk
- Getting Started with Antigravity CLI - Google Cloud Community (Medium), https://medium.com/google-cloud/getting-started-with-antigravity-cli-26c5da90951f
- Getting Started with Antigravity CLI, https://antigravity.google/docs/cli/getting-started
- Installation & Auth - Google Antigravity Documentation, https://antigravity.google/docs/cli/install
- [Bug] agy Command Not Recognized in One PowerShell Tab Despite Being Installed Works in Another Tab on Windows 11 #109 - GitHub, https://github.com/google-antigravity/antigravity-cli/issues/109
- Troubleshooting - Google Antigravity Documentation, https://www.antigravity.google/docs/cli-troubleshooting
- Hands-on with Antigravity CLI - Google Codelabs, https://codelabs.developers.google.com/antigravity-cli-hands-on
- Using AGY CLI - Google Antigravity Documentation, https://antigravity.google/docs/cli/using
- Antigravity CLI と ADK の初心者向けワークショップ(初めての AI コンパニオンを構築する)- Google Codelabs, https://codelabs.developers.google.com/companion-adk-beginner/instructions?hl=ja
- I tried installing Google Antigravity CLI on Windows and having it create a Todo app in Japanese - DevelopersIO, https://dev.classmethod.jp/en/articles/google-antigravity-cli-windows-japanese-todo-app/
- [BUG] Windows terminal commands hang on "Running..." because Antigravity compares c:\... and C:\... as different paths - Google AI Developers Forum, https://discuss.ai.google.dev/t/bug-windows-terminal-commands-hang-on-running-because-antigravity-compares-c-and-c-as-different-paths/129882
- [Bug]: Installation fails on Windows due to Long Path issue (Failed to create file handle) - Google AI Developers Forum, https://discuss.ai.google.dev/t/bug-installation-fails-on-windows-due-to-long-path-issue-failed-to-create-file-handle/130618
- Antigravity CLI doesn't persist oauth - Reddit (r/google_antigravity), https://www.reddit.com/r/google_antigravity/comments/1tic7if/antigravity_cli_doesnt_persist_oauth/
- AGI cli does not remember OAUTH login · Issue #57 - GitHub, https://github.com/google-antigravity/antigravity-cli/issues/57